東京高等裁判所 昭和29年(う)2216号 判決
被告人 皆川義光
〔抄 録〕
弁護人の論旨第一点について。
原判決が認定した被告人の所為は、俗に無銭飲食又無銭遊興といわれるものであるところ、一般に無銭飲食や無銭の遊興をする犯人は、当初からその対価を支払う意思のないのにあるように装う場合もあり、相手方から給付を得た以後において欺罔の意思を生じ、その対価支払の義務を免れるため欺罔行為に出る場合もあること、その如何により詐欺罪成立の時期に相違を生ずることはまことに所論の通りであるから、原判決が、その事実理由において、「被告人は所持金なくかつ代金支払の意思がないにもかかわらず然らざるものの如く装つて」と冒頭し、原判示日時場所において原判示のような宿泊、飲食をなした上、「逃亡してその代金三万二千二百九十円の支払を免れたものである」と説示したのは、欺罔行為の時期、換言すれば、詐欺罪成立時期の決定について、首尾一貫しないような観がある。けれどもひるがえつて考えてみると、飲食店が客に提供する行為の態様は一様ではない。即ち場屋その他諸設備の提供飲食物の供与、それ等の附随する接待行為など一連の行為であつて、しかもそれ等は相錯綜し、一々法律的に分析することは著しく困難であるばかりでなく、社会通念上からいつても、同一の機会になされた敍上のような一連の行為は、包括して一個の行為とみるのを相当とするから、仮令犯人が最初から欺罔の意思をもつて飲食遊興した場合でも相手方を最終的に欺罔した行為が終了した時において、包括的に一個の詐欺罪が成立すると解すべきものである。これを本件の場合にみるに、原判決をその挙示する証拠と対照して検討すれば、被告人は最初から欺罔の意思をもつて原判示被害者方において、原判示のような飲食、宿泊をなした後、自動車で帰宅する知人を見送ると申欺いて被害者方の店先に立出でたまま逃走したものであるから、その時において代金支払を免れようとする欺罔行為が終了し、ここに詐欺罪は既遂に達したものというべきである。
従つて原判決の判示は結局正当であつて、原判示行為を認定した上、包括的に刑法第二百四十六条を適用した原判決には所論のような理由のくいちがいはなく、論旨は理由がない。